Article 05

凛花

神奈川県
 - of 凛花

外国人観光客には、京都とその人気を二分するほどの街鎌倉だが、いざ泊まろうとすると、頃合いの宿が少ないことに気付く。チェーン系のホテルだったり、会員制の宿や昔ながらのビジネスホテルなど、食指の動く宿が見当たらない。
周辺を探してみると、大船まで足を伸ばせば何軒かあるが、鎌倉と大船では雰囲気があまりに違う。

長谷観音、鎌倉大仏、鶴ヶ岡八幡宮などなど、観光名所には事欠かない鎌倉を訪ねようとして、はて、宿はどうしたものかと思いあぐねていて、偶然見つけた宿が、小坪海岸にある『凛花』。
小ぢんまりとした三つのツインルームと、広々とした離れがひと部屋。一日に四組しか泊まれない小さな宿である。

JRの鎌倉駅、逗子駅、どちらの駅からも小坪に停まるバスが出ている。これに十五分ほど揺られて、バス停から徒歩で五分ばかり。  
小高い丘の上にあるので、上り坂を少々、息を切らせながら歩くと、民家と見紛うような入口があって、茶室の露地にも似た、狭い通路を通って玄関に辿り着く。ちょっと京都にも通じるような隠れ処感が愉しい。きっと誰もが、こんな場所に宿があるとは思わないだろう立地。
ふたりならツイン。家族連れやグループなら離れ。どちらも飾りすぎずシンプルな造り。必要にして充分な設備が整っている。

部屋には風呂が付いておらず、大浴場もない。あるのは二箇所の貸切風呂だけなのだが、この風呂の心地よさは折り紙つきである。
空いてさえいればいつでも入れるのもありがたい。全館満室でも四組の客しか泊まらないのだから、大抵は空いている。内側から鍵を掛ければ、誰にも邪魔されることなく、ゆっくり、のんびりと湯浴みを愉しめる。

そして湯上がりの愉しみといえば、なんといっても夕食。
夕餉は個室仕様の食事処で供される。風呂と同じくプライベート感があり、心置きなく食事に専念出来る。まるで我が家で食事をしているような、安らかな居心地。

さて、その夕食はといえば、地産地消を旨としながら、スタイリッシュな一面も持ち、個性あふれる料理が、次々と繰り出される。 

朝採れの鎌倉野菜や、小坪の港に揚がる海の幸が按配よく出され、この地ならではの献立に舌鼓を打つのは〈味の宿〉ならではのこと。料理だけではない。小宿だからこそ、行き届いた感性が随所にきらりと光る。
鎌倉旅の宿をお探しの方に、強くお奨めしたい宿。それが『凛花』である。

ライター: 柏井