Article 03

百名伽藍

沖縄県
 - of 百名伽藍

那覇空港から車で三十分足らず。宿に辿り着いて暫くの間、誰もが言葉を失う。
目の前に広がる海。その海を眺めるに、これ以上は望めないだろう、堂々たる建屋の美しさ。どんな美辞麗句を駆使したとしても、この場に立ち、五感すべてで感じ取る感動を越えることなど、決して出来はしない。

最初に案内されるロビーラウンジからの眺めが素晴らしい。ビーチではなく、海、という眺め。落ち着きのある風景だ。その後に通される客室はもちろんのこと、すべてのパブリックスペースからの素晴らしき眺め。本物だけが醸し出す設えの見事さ、その両者によって生み出される居心地のよさ。どんなに言葉を尽くしても、この宿の素晴らしさは伝え切れないほど。

その宿の名を『百名伽藍』といい、リゾートホテルのようでもあるが、泊まってみると、日本旅館に限りなく近い味わいを感じる。

すべての客室はオーシャンビューになっていて、そのバスルームからも存分にうみの眺めを愉しめる。窓の下はすぐ海。波の音は無論のこと、魚が跳ねる水音まで聞こえてくる。 
バスタブに身を沈めると、まるで海に入っているかのような錯覚をおぼえる。干潮と満潮で表情をがらりと変える海。広い空。見えるのはそれだけという贅沢な眺め。

最上階に設けられた、貸切露天風呂も、ここを旅館だと位置付ける理由。〈方丈庵〉と名付けられたそこには、六つの小部屋があり、それぞれ海を間近に望む露天風呂が設えられている。温泉ではないが、そんなことは微塵も気にならないほど、開放感に溢れた風呂。宿泊者は朝も夜も、無料で利用出来るのもありがたい。

数日滞在しても、朝夕毎日料理が変わるという、奥行きの深い〈和琉料理〉も実に美味しい。琉球料理と日本料理のいいとこ取り。 
旅人にとっては申し分のないスタイルで、豆腐蓉の深い味わいと、石垣牛の旨さがとりわけ印象に残る。

赤瓦や琉球石灰岩、チャーギなど沖縄の素材をふんだんに使用した建築。巨大なガジュマルが生い茂る中庭。高さ七メートルを超える石仏。地元への深い愛がなければ、これほどの設えにはならない。
沖縄というより、日本とアジアの中継地点として、四百五十年の長きに渡って続いた琉球王国の歴史を、今に伝える宿としての役割をも『百名伽藍』は担っている。
伽藍とは、僧が修行する清浄な場所を指す。その名を冠し、体現しながら、快楽をも享受出来る宿。
『百名伽藍』は沖縄唯一無二の宿であり、沖縄の持つ味わいを、深く感じさせる宿である。

ライター: 柏井